法令違反の派遣元事業主に対する対応について
指導監督件数の増加
令和2年6月26日に開催された、第302回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、「法令違反の派遣元事業主に対する対応について」が公表されています。
平成27年度の改正派遣法実施年度からの5年間の違反状況について解説されています。派遣元事業主に対する指導監督件数 は、5年間の数字を見ると、増加傾向ではあります。この5年間で指導監督件数は約3割増えています。派遣会社の登録数そのものは平成27年度以降、許可更新要件が厳しくなったこともあり、(旧)特定派遣事業所が廃止されたこともあって減少していますが、調査数は逆に増えています。労働者派遣事業の事業報告の集計結果について、で公表されている事業所数をベースに分析してみました。
年度 | 一般許可事業所数 | (旧)特定派遣事業所数 ※ | 合計事業所数 | 指導監督件数 | 指導監督率 |
令和元年6月1日時点 | 38,128 | 0 | 38,128 | 11,614 | 30.5% |
平成30年6月1日時点 | 29,667 | 40,703 | 70,370 | 10,139 | 14.4% |
平成29年6月1日時点 | 22,152 | 48,582 | 70,734 | 10,091 | 14.3% |
平成28年6月1日時点 | 18,270 | 50,597 | 68,867 | 9,555 | 13.9% |
平成27年6月1日時点 | 17,350 | 55,077 | 72,427 | 8,373 | 11.6% |
※平成27年の派遣法改正を受け、(旧)特定派遣事業所は現在ゼロとなっています。
指導監督件数は、文書による指導数も含んでいます。令和元年についていえば、指導監督件数11,614件に占める文書指導の割合は6,140件。半分以上の会社は何らかの指導(改善)をすることになったわけです。
派遣法の条項別、違反のワースト5
令和元年度での統計では、指導を受けた内容の上位5種は下記となります。派遣法に沿った書類の準備や、情報提供が正しく行われているかという形式面での指導が主になります。実際、まだ人材サービス総合サイトの存在を知らない派遣元会社もあるようです。マージン率の提供は、このサイトまたは自社のサイトでの公表が原則となります。
今回の公表資料では、マージン率のインターネットでの情報提供の実施率は向上しているものの約2割に止まっているとの記載があり、要望があった場合に、パンフレット等の書面開示をするにとどまっている事業所も多いようです(書面開示そのものが違反ということではありません)。
派遣法条項 | 指導内容 | 指導件数 |
法第34条 | 派遣労働者に対する就業条件等の明示 | 3,030 |
法第37条第1項 | 派遣元管理台帳 | 2,570 |
法第26条第1項 | 労働者派遣契約締結の際の記載事項 | 2,240 |
法第35条 | 派遣先への通知 | 1,525 |
法第23条第5項 | マージン率等の提供 | 1,033 |
就業条件明示や派遣元・派遣先管理台帳関連など手続き面に関する違反が多く、同じ法律条項違反を繰り返している派遣元事業所も一定割合で存在する。との報告も記載されています。いったん指導・助言を受けても改善をしないまま、元に戻ってしまうケースも見受けられるようです。
2回以上、文書指導を受けている派遣元207事業所のうち、同一の法律条項違反で2回以上文書指導を受けている数は145事業所と70%にも上ります。指導・助言を受けること自体は一時的にはやむを得ないことであり、現状に不備があっても即事業停止ということにはなりませんが、改めて派遣業は、派遣法で特別に認められた事業形態であることを忘れないようにしたいところです。日本という国家の本当の理想は「直接雇用」であり、派遣業は例外的な枠組みでの運用であることを忘れないようにしたいところです。
このコロナ禍で、本年度は指導監督件数が減少することも考えられないこともないですが、こういう時期だからこそ、今のうちに社内の書面整備を進めておくという意識は重要だと思われます。また、同一労働・同一賃金への対応(通常は労使協定方式)も今後は指導ポイントとなっていくことでしょう。書式や社内での運用について、今一度見直しておくことをお勧めいたします。