労使協定方式における賃金決定パターンは8通り
2020年度派遣スタッフの事実上の最低賃金(局長通知)が公表されました
厚生労働省HPで、2019年7月8日に局長通知が公表され、労使協定方式を採用する派遣元会社での派遣スタッフ賃金の時給の下限が示されました。
時給の算定ツール【一般労働者と派遣労働者の賃金比較ツール(令和2年度適用版)】も公表され、2020年4月の改正派遣法施行に向けて、派遣元会社が動くための最低限の環境は整備されたことになります。派遣労働者の同一労働同一賃金のHPにおいて、近日中にFAQも公表されていく予定です。
労使協定方式を採用するうえで派遣元会社がもっよも気にするのは、現状の時給よりも相当に高額になるのではないか?ということでしょう。
時給は、A.職種別賃金(職種別の基準時給×能力・経験調整指数)×B.地域指数 で算定されます。実際の計算は、前述の賃金比較ツールのExcelシートを使用することでできますが、AとBの算出時にどの統計データを使用するかで時給金額は全く違ってきます。
結論としては、次の8パターンをツールで比較のうえ、自社はどのパターンを選択するかを決定するということになるでしょう。
パターン | A.職種別賃金 | B.地域指数 |
① | 賃金構造基本統計調査 | 都道府県 全体 |
② | 賃金構造基本統計調査 | 各公共職業安定所 |
③ | 職業安定業務統計(大分類) | 都道府県 全体 |
④ | 職業安定業務統計(大分類) | 各公共職業安定所 |
⑤ | 職業安定業務統計(中分類) | 都道府県 全体 |
⑥ | 職業安定業務統計(中分類) | 各公共職業安定所 |
⑦ | 職業安定業務統計(小分類) | 都道府県 全体 |
⑧ | 職業安定業務統計(小分類) | 各公共職業安定所 |
Aについては、局長通知による職種ごとの時給の元となるデータとして賃金構造基本統計調査と職安定業統計の2つが用意されています。賃金構造基本統計は職種ごとに時給が1つに決まっているのですが、職業安定業務統計は、1職種に大・中・小の3分類が設けられています。つまり職業安定業務統計を時給決定時に採用すると、同じ仕事でも3種類の時給が提示されることになり、派遣元会社は、いずれかを選択することになります。
Bは、同じ職種でも地域(都道府県)が変われば時給が異なることから、派遣先の事業所が所在する地域ごとに指数が設定されています。分かりやすくいえば、中央値を100%として、時給相場の高い地域は100%を超える指数がつけられており、中央値よりも高い時給設定が必要となります。(余談ですが、岐阜県や静岡県は、ほぼ中央値。東京はもっとも高い114.1%)
ただし、この地域指数も2つ用意されています。(1)派遣先事業所の管轄のハローワークでの指数 または(2)派遣先事業所を管轄する地域全体の指数(愛知県であれば、愛知県全体として一つの指数が用意されています)があります。
(1)(2)のいずれを選択するかは派遣元に委ねられています。(正確には、労使協定による労使の承認が必要)
ここまでをまとめると、上記表の8パターンとなるわけです。
一度、決めた時給を下げるために指数を変更することは難しい
派遣元としては、時給がもっとも低くなる組合わせを①~⑧のなかで検討したうえで、実際の時給をどう決めるかという順序になることでしょう。実際は時給が低ければ良いというコスト面で検討するわけでなく、求人面での訴求力なども総合的に勘案して決めることになるでしょうが、評価の上で時給が上昇する可能性がある評価・賃金制度が求められるため、やはり基本としての時給を過度に上げたくないというのが派遣元会社の悩みになると推測しています。
ポイントとなるのは、時給引き下げを目的とした①~⑧の区分変更は認められていません。よほど合理的な理由があれば別でしょうが、基本的に引き下げはできなくなっています(派遣法の観点だけでなく、労働基準法における不利益変更にも該当します)。
派遣スタッフの時給引き下げを目的として、職業安定業務統計の大中小の分類を低い方に変更することは認められないこととされています。職種ごとに分類を使い分けることも原則できません(使い分ける場合には、その理由を労使協定に記載することが求められます。) 。
同じ都道府県のなかで指数の選択基準も、原則、変更できません。つまり、同じ都道府県内の派遣であれば、ある地域では全体指数を選択する一方で、別の地域では個別の公共職業安定所指数の方が低いからといって、低い方を個別に選択することはできません。
つまり、2020年4月施行時の最初の時給決定がポイントになります。後で低い時給区分での計算を選択したいと思っても、その変更は難しいと考えた方が良いでしょう。