令和5年度局長通達を読み解く
令和4年8月26日付で、令和5年度局長通達が公表されました。前年度との比較とともに、読み解いていきたいと思います。
職安統計に基づく一般賃金は約1%上昇
令和5年度局長通達の元となる職安統計に基づく一般賃金は、令和3年度にハローワークで受理した無期かつフルタイムの求人に係る求人賃金(月給)の下限額の平均を、一定の計算方法(月額×12÷52÷40)で時給換算し賃金構造基本統計調査から計算した賞与指数(0年:1.02%)を乗じて作成 されたものです。令和3年は、新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が徐々に 緩和される中で、持ち直しの動きがみられる時期でもあったため、全体的に上昇傾向にあるといえます。
ご参考までに、令和4年度との比較表を作成しましたので、ご覧ください。
賃金構造基本統計に基づく一般賃金は全体的に減少傾向
令和5年度の局長通達の元となる賃金構造基本統計に基づく一般賃金は、実際に支払われた賃金を元に統計化された過去2年分の統計値に基づいて算出されています。
局長通達の適用年度により変化の著しい賃金構造基本統計ですが、その理由は集計方法の変化にあります。
令和4年度局長通達:令和2年分の統計値を用いて算出※
令和5年度局長通達:令和2年・令和3年分の統計値より算出
※令和4年度の局長通達では、職種区分の大幅な変更により過去3年分の統計値を用いた算出が困難になったため、令和2年単独の統計値より算出したもの。
令和4年度との比較表は、以下のとおりです。
能力・経験調整指数は上昇
令和4年度に比べ、全体的に指数が上昇しています。派遣労働者が従事する業務の内容、難易度等が1年以上に該当する場合は、賃金上昇が見込まれます。
0年 | 1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 | |
令和5年 | 100.0 | 116.2 | 125.6 | 129.1 | 138.1 | 151.2 | 191.4 |
令和4年 | 100.0 | 114.3 | 123.9 | 128.8 | 134.5 | 151.1 | 188.6 |
差 | 0.0 | 1.9 | 1.7 | 0.3 | 3.6 | 0.1 | 2.8 |
上記の表の年数は勤続年数と一致させる必要はありません。(労使協定方式に関するQ&A問2-8)
通勤手当は変更無し
通勤手当を時給に含めて支給する場合は、令和4年度と同じく、1時間あたり「71円」となります。
通勤手当を実費で支給する場合、公共交通機関なら実費となりますが、マイカー通勤の場合は少し注意が必要です。理由は、ガソリン価格の高騰です。資源エネルギー庁が公表している石油製品価格調査によりますと、令和3年3月平均のレギュラーガソリンの全国平均は147.6円(1リットルあたり)に対し、令和4年3月平均は174.6円であり、現在も高い傾向にあります。ガソリン価格の変動に関わらず、「1kmあたり〇円」といった固定値が継続している場合は、根拠を伴った数値であるか、確認することをお勧めいたします。
退職金割合は6%から5%へ
退職金を前払として時給に含めて支給あるいは中退共等に加入している場合は、割合が下がります。「令和3年就労条件総合調査」の「退職給付等の費用」の「現金給与額」(令和3年賃金構造基本統計調査により超過勤務手当分を除いた額)に占める割合が5%に下がったことが理由となります。
地域指数は緩やかな上昇(0.3%UP)
全体平均としては、0.3%UPです。ちなみに、愛知は105.3%で昨年より0.1%down、お隣の岐阜県は100.5%で昨年より0.3%UPです。こちらも比較表を作成してみました。
以上により、一般賃金、能力・経験調整指数、地域指数は上昇し、退職金割合は減少したことがわかりました。結局、派遣労働者に支払う賃金が上がるか否かは、実際に計算してみないとわかりません。ご参考までに、比較的多い派遣先の職種別に計算してみました。
ポイントは、退職金の支払方法です。
退職金を前払いで支給あるいは中退共等で積み立てている場合は、昨年と同等もしくは若干低い数値になることがわかります。反対に、退職金を退職手当制度で支給する場合は、昇給が必要な職種が多いようです。
とはいえ、局長通達により算出された賃金額が下がったからといって、時給を下げてしまうと不利益変更になりますので、注意しましょう。局長通達の基準は最低賃金と同じで下回らないことが重要であり、人事評価や職種変更等以外で賃金を低下させることの無いように、ご留意いただければと思います。