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派遣スタッフから妊娠報告があったら?派遣先・派遣元の責務について

投稿日: 2022-11-30 |
最終更新日: 2022-11-30 |

派遣事業者 特化記事です

派遣スタッフから妊娠報告があった場合、派遣先・派遣元(あるいは双方)において気を付けるべきポイントがあります。
派遣スタッフが安心して出産・育児に臨めるように、法律上の責務を把握し、社内体制を整えておきましょう。

派遣先・派遣元の責務

妊娠・出産・育児における、派遣先・派遣元の責務は、次の表のとおりです。
特に、マタハラ・パタハラ規制は、派遣先・派遣元双方に責務がありますので、ご留意ください。

派遣元 派遣先
労働基準法 産前産後の休業
(産前は請求がある場合のみ)
危険有害業務の就業制限
妊婦の軽易業務転換
(請求がある場合のみ)
坑内業務の就業制限
妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限
(請求がある場合のみ)
産前産後の時間外、休日、深夜業の制限
(請求がある場合のみ)
育児時間
(請求がある場合のみ)
男女雇用機会均等法 妊娠、出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上及び指揮命令上の措置
職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務
母性健康管理に関する措置
(請求がある場合のみ)
母性健康管理に関する措置
(請求がある場合のみ)
育児介護休業法 育児休業(※)、子の看護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、本人又は配偶者の妊娠・出産等の申出、所定労働時間の短縮措置等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止 育児休業(※)、子の看護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、本人又は配偶者の妊娠・出産等の申出、所定労働時間の短縮措置等を理由とする不利益取扱いの禁止
職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置 職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上及び指揮命令上の措置
職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務 職場における育児休業等に関する言動に
起因する問題に関する事業主の責務
出生時育児休業、育児休業、子の看護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置等
(請求または申出がある場合のみ)

(※)出生時育児休業及び出生時育児休業期間中の就業可能日等の申出を行わなかったこと等を理由とする不利益取扱いも派遣元、派遣先の双方で禁止されます。

派遣先が留意すべきこと

派遣元または派遣スタッフから妊娠の報告を受けたら、まずは危険有害業務に該当するか否か、確認する必要がございます。母体に影響があってからでは遅いので、最優先で確認しましょう。

次に、派遣スタッフから請求があれば、時間外労働等の制限や育児時間の付与、母性健康管理に関する措置を講ずる必要がございます。派遣先は、これらの請求があったことや妊娠や出産に起因する症状(つわりや切迫早産、出産後の回復不全等)を理由に、派遣スタッフの交替を求めたり、当該派遣スタッフの派遣を拒むと不利益取扱いに該当する恐れがありますので、注意しましょう。

この話をすると、「派遣契約違反にならないのか?」「何のための派遣契約か?」とご意見をいただくことがございます。しかしながら、以下の通達によりますと、かなり厳しい要件であることがわかります。

(参考)平成28年8月2日雇児発0802第1号
「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められない場合とは、単に、妊娠、出産等により従来よりも労働能率が低下したというだけではなく、それが、派遣契約に定められた役務の提供ができない程度に至ることが必要であること。また、派遣元事業主が、代替要員を追加して派遣する等により、当該派遣労働者の労働能率の低下や休業を補うことができる場合についても、「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められるものであること

 

派遣スタッフからマタハラの訴えがあった場合の立証責任は派遣スタッフ側にありますが、派遣元・派遣先には反証責任が課されています。妊娠・出産を理由とした派遣スタッフの交替等を求める場合は、「派遣契約に定められた役務の提供ができない程度」であることを証明するものが無いと、派遣先において不利益取扱い行われていると判断されかねませんので、ご留意ください。

派遣元が留意すべきこと

派遣元は雇用者ですので、派遣先より留意すべきことはたくさんあります。

まず、派遣スタッフから妊娠の報告を受けたら、自社の育児休業や社会保険制度に関する個別周知・意向確認が必要です。(2022年4月改正)

次に、派遣スタッフから請求があれば、軽易業務の転換や変形労働時間制の適用制限、母性健康管理措置等を講ずる必要がございます。特に、変形労働時間制を導入している場合であっても、スタッフから請求があれば、1日及び1週間の法定労働時間を超えて働かせることができませんので、ご留意ください。

そして、一番に留意すべきは、マタハラです。特に、派遣スタッフは有期契約である場合が多いと思われます。妊娠がわかったタイミングで解雇や雇止めをすると、法が禁じている不利益取扱いに該当する可能性がございます。妊娠・出産以外の理由で解雇や雇止めをする場合は、次のような特段の事情が必要です。

妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A
(1) 経営状況(業績悪化等)を理由とする場合

①事業主側の状況(職場の組織・業務態勢・人員配置の状況)
・ 債務超過や赤字の累積など不利益取扱いをせざるを得ない事情が生じているか
・ 不利益取扱いを回避する真摯かつ合理的な努力(他部門への配置転換等)がなされたか

② 労働者側の状況(知識・経験等)
・ 不利益取扱いが行われる人の選定が妥当か(職務経験等による客観的・合理的基準による公正な選定か)

(2) 本人の能力不足・成績不良・態度不良等を理由とする場合
(但し、能力不足等は、妊娠・出産に起因する症状によって労務提供ができないことや労働能率の低下等ではないこと)

① 事業主側の状況(職場の組織・業務態勢・人員配置の状況)
・ 妊娠等の事由の発生以前から能力不足等を問題としていたか
・ 不利益取扱いの内容・程度が、能力不足等の状況と比較して妥当か
・ 同様の状況にある他の(問題のある)労働者に対する不利益取扱いと均衡が図られているか
・ 改善の機会を相当程度与えたか否か(妊娠等の事由の発生以前から、通常の(問題のない)労働者を相当程度上回るような指導がなされていたか等)
・ 同様の状況にある他の(問題のある)労働者と同程度の研修・指導等が行われていたか
② 労働者側の状況(知識・経験等)
・ 改善の機会を与えてもなお、改善する見込みがないと言えるか

 

本人の能力不足等を理由とした雇止めを行う場合は、上記の要件を証する証拠が必要です。妊娠・出産期に限らず、常日頃から能力不足等を感じる場合は、指導の都度、改善指導記録を残し、教育・改善の機会を与えることが必要です。

また、雇用契約の更新手続は形式的な書面のやり取りでは無く、契約が終了する都度面接し、評価をフィードバックすることが大切になります。能力不足であることを感じつつも、放置したり、軽易な業務ばかり与えていると、当人は改善するどころか、「今のままで問題無い」と勘違いしてしまうおそれがあります。

人を指導・教育することは簡単ではありませんが、改善すれば戦力となりますし、改善しない場合の後々のリスクを回避するためにも必要な措置です。

人口減少が進む中、人的資源の有効活用は喫緊の課題です。派遣スタッフが安心して妊娠・出産し、復職できるように、派遣元は社内体制を整備し、多様なスタッフが働ける環境を創るべく営業開拓していくことが必要と思われます。

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