2020年改正派遣法に違反してしまったときの厳しい罰則
派遣法改正後の、うっかり違反行為へのペナルティ
2020年4月1日より労働者派遣法が改正されます。今回の改正内容を知らず、意図せずにやってしまった行為であっても、厳しいペナルティ(罰則)が付されるケースがあります。
以下の図は違反の内容と罰則内容を一覧にまとめたものです。
違反内容 | 罰 則 | |
① | 事業報告に労使協定を添付しなかった | 30万円以下の罰金 |
② | 派遣元へ情報を提供しない、虚偽報告 | (派遣先)勧告・公表 |
派遣先からの情報を保存しない | (派遣元)許可取り消し・業務停止・改善命令 | |
③ | 不合理な待遇の禁止等に違反 | 許可の取り消し・業務停止・改善命令 |
④ | 待遇等を説明しなかった | 許可の取り消し・業務停止・改善命令 |
⑤ | 紛争解決のため公的機関等を利用した派遣労働者を不利益に取り扱う | 許可の取り消し・業務停止・改善命令 |
追加された罰則規定は、上記5つです。一つずつ確認していきましょう。
①事業報告書に労使協定を添付しなかった場合(労使協定方式を採用の場合)
改正派遣法施工前の現行では、事業報告書及び収支決算書を期限までに提出しなかった派遣元会社のケースで、労働局から必要事項の報告の求めがあったにもかかわらず報告をせず、または虚偽の報告をした場合は、30万円以下の罰金に処せられる場合があります。
2020年の法改正により、罰則の対象となる行為を規定する条文に、新たな一文が追加されました。労使協定方式を採用した派遣元会社は、事業報告書に労使協定を必ず添付しましょう。
また、協定内容が法令を下回る場合や協定に定めた事項が守られていなかった場合は、労使協定は無効となり、原則である派遣先均等・均衡方式が採用されます。派遣先均等・均衡方式が採用されたことにより、派遣先の比較対象労働者の賃金が局長通知よりも高い水準の場合は、賃金の未払いが生じる可能性があります。派遣料金の遡っての交渉も難しいと思われますので、適正に協定締結を行い、実施するように、ご留意ください。
②派遣先が比較対象労働者の情報を提供しなかった場合、派遣元が提供された情報を3年間保存しなかった場合
派遣元が派遣先均等・均衡方式を採用している場合の罰則です。
(●派遣先のリスク)派遣先が比較対象労働者の待遇等に関する情報を提供しなかった場合、虚偽の情報を提供した場合、当該比較対象労働者の待遇等に変更があったときに、遅滞なく派遣元に情報提供しなかった場合は、勧告、公表の対象となります。
(〇派遣元のリスク)派遣元が派遣先から比較対象労働者の待遇等に関する情報の提供を受けずに労働者派遣契約を締結した場合は、許可の取り消し、事業停止命令、改善命令の対象となります。
また、派遣先からの比較対象労働者の待遇等に関する情報や変更があったときの情報を所定の期間(労働者派遣が終了した日から起算して3年を経過する日)保存しなかった場合は、許可の取り消し、事業停止命令、改善命令の対象になります。
非常に厳しい罰則となります。情報提供書類を紛失したという言い逃れはできません。派遣先均等・均衡方式を採用する場合は、①派遣先からの情報提供を得てから、②労働者派遣契約を締結し、③派遣終了後3年間保存を確実に行いましょう。
③不合理な待遇の禁止等に関する規定に違反した場合
労働者派遣法第30条の3に不合理な待遇の禁止規定があります。派遣先均等・均衡方式を採用した場合に、不合理な待遇差を設けることを禁止した規定です。この規定に違反した場合は、許可の取り消し、事業停止命令、改善命令の対象になります。
第三十条の三 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。2派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。
待遇差が不合理か否かは、最終的に司法(裁判所)が判断する領域でもあります。多くの判例が出てくるなかで、許容できない待遇差がはっきりしてくるものだと思います。
労働者派遣法第30条の3に違反しているか否かは、どのタイミングで判断されるのか明確ではありませんが、最終的には許可の取り消しという重い罰則がありますので、派遣元は十分な注意が必要です(労使協定方式を採用する会社には関係ありません)
④待遇に関する事項等の説明義務違反
労働者を派遣労働者として採用しようとするとき、または労働者派遣をしようとするときは、待遇に関する事項等を説明する必要があります。この義務に違反した場合は、許可の取り消し、事業停止命令、改善命令の対象になります。
また、派遣労働者から求めがあったにも関わらず、比較対象労働者との待遇の相違の内容や理由について説明を行わなかった場合、または、求めがあったことを理由に解雇等の不利益な取り扱いをした場合は、許可の取り消し、事業停止命令、改善命令の対象になります。
この④は、うっかり違反するケースも多いかと思います。常日頃、派遣スタッフと接する営業・コーディネーターは、派遣スタッフの待遇についてしっかり把握する必要があります。
派遣スタッフと、その派遣先で直接雇用されているスタッフ間で待遇の話題になったとき、派遣先においての日々の仕事を通して待遇に差があることに気づくと、少しずつ不満を抱えるものです。例えば安全靴の支給1つでも、派遣先の同僚は会社から無償で貸与されているが、派遣スタッフは自己負担をしないといけない・・・というケースもいまだにあります。
法改正の時期が近づきますと、同一労働同一賃金が適用されるニュースなどに派遣スタッフの方が接する機会が多くなるでしょう。その結果、派遣スタッフの雇用契約を更新する際などに、待遇の事項について説明を求める事が多くなることが予想されます。
派遣労働者にしてみれば、派遣先均等・均衡方式なのか、労使協定方式で待遇を決定しているかについては、理解が難しいと思われます。そのため、日々の仕事で接する派遣先で直接雇用されている者との待遇を基準と思い、説明を求めてくることが多くなるのではと推測しています。その問い合わせについて、説明義務を果たさない場合は違反になり得るのです。
以下は、説明義務が求められる項目です。平成30年労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>厚生労働省・都道府県労働局より抜粋しました。
① 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く。)の決定等に関する事項
② 休暇に関する事項
③ 昇給の有無
④ 退職手当の有無
⑤ 賞与の有無
⑥ 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か
(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
※ 【労使協定方式】の場合は、上記⑥のみ明示することが必要です。
【派遣先均等・均衡方式の場合】
<待遇の相違の内容>
次の①及び②の事項を説明しなければなりません。
① 派遣労働者及び比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項の相違の有無
② 「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」又は「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の実施基準」
<待遇の相違の理由>
派遣労働者及び比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、待遇の相違の理由を説明しなければなりません。
協定対象派遣労働者の賃金が、次の内容に基づき決定されていることについて説明しなければなりません。
・ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの
・ 労使協定に定めた公正な評価協定対象派遣労働者の待遇(賃金、法第40条第2項の教育訓練及び法第40条第3項の福利厚生施設を除く。)が派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がなく決定されていること等について、派遣先均等・均衡方式の場合の説明の内容に準じて説明しなければなりません。
⑤紛争解決に向けての援助を求めたことを理由として派遣労働者に不利益取扱いを行った場合
派遣スタッフが派遣元との間の紛争に関し、都道府県労働局にあっせん等の援助を求めたことを理由として、派遣スタッフに解雇等の不利益な取り扱いをした場合は、許可の取り消し、事業停止命令、改善命令の対象になります。
以上のとおり、同一労働同一賃金違反は、最終的には派遣許可取消という厳しいペナルティにつながりますので、うっかりの違反には注意が必要です。
派遣先・派遣元ともに2020年4月の改正法施行に向けて、準備を進めていきましょう。