「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布されました
2018年6月29日に参議院で「働き方改革関連法」が可決成立。7月6日には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」として正式に公布されました。待ったなしで働き方改革が進んでいくことが決まったわけです。
厚生労働省HPにおいても、早速その概要がアップされていますが、派遣会社として気になるのは、改正時期と、その改正による影響です。この法律の施行時期は平成2019年(平成31年)4月1日とされていますが、部分的にそうでないものもあります。
概要を見ると、下記の主要な改正項目が記載されており、施行期日は2020年(平成32年)4月1日です。念のためですが、配慮・努力義務ではなく必須義務です。
ちなみに、中小企業におけるパートタイム労働法・労働契約法の改正規定の適用は2021年(平成33年)4月1日)とされています。
短時間・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。併せて有期雇用労働者の均等待遇規定を整備。派遣労働者について、
①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、
②一定の要件(※)を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化。また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備。
(※)同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等
短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。
1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。
分かりやすく言えば、すべての派遣会社は、東京オリンピックが始まる前には法律に沿った運用が実現できるようにしておく必要があります。2020年4月1日にはこの法律に沿った運用ができないとNGです。この運用ができているかどうかは、2020年4月1日以後の更新時にチェックされることは必須でしょう。
ポイントは、派遣スタッフではない正規雇用者(派遣元の正社員。比較対象労働者と言います)との待遇差の解消です。いわゆる同一労働・同一賃金の考え方が導入されています。原則は、同じ仕事をする派遣元の社員がいれば、同水準の賃金を払うことが求められるわけですが、上記②の一定要件を満たす労使協定があれば、派遣元の水準の処遇でなくともOKとなります。新設された個所は下記です。
派遣法26条に下記が追記されます。
遣元事業主に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働
者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。
務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労
働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令
で定めるものをいう。
で、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務に係る労働者派遣契約を締結してはならない。
更の内容に関する情報を提供しなければならない。
十条の四第一項の協定に係る労働者派遣以外の労働者派遣にあつては第三十条の三の規定、同項の協定に係る労働者派遣にあつて
は同項第二号から第五号までに掲げる事項に関する協定の定めを遵守することができるものとなるように配慮しなければならない。
派遣先は、派遣契約前に派遣会社に、派遣スタッフと同じ職務についている社員(比較対象労働者)の賃金情報を開示する必要があり、その開示をしない場合は、派遣契約を結ぶことはできず、派遣スタッフを受け入れることができない。これが原則になります。
ただし、派遣先が情報を開示できないであろうことを想定して、上記11項に、30条の4第1項という例外規定の存在を記しています。
第30条の4 第1項
派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第四十条第二項の教育訓練、同条第三項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条(30条の3)の規定は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。
ただし、第二号、第四号若しくは第五号に掲げる事項であつて当該協定で定めたものを遵守していない場合又は第三号に関する当該協定の定めによる公正な評価に取り組んでいない場合は、この限りでない。
一号.その待遇が当該協定で定めるところによることとされる派遣労働者の範囲
二号.前号に掲げる範囲に属する派遣労働者の賃金の決定の方法
(次のイ及びロ(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものにあっては、イに該当するものに限る。)(イ)派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。
(ロ)派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること
三号.派遣元事業主は、前号に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たっては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること。
30条の3は、派遣先の比較対象労働者の賃金水準を考えたうえで、意欲や経験などの情報も踏まえたうえで派遣スタッフの賃金を決めなさいという規定(原則)なのですが、この30条の4があることで、労使協定を結んだうえで、公正な評価を実施し、その評価に応じた賃金が変動するのであれば、派遣先の賃金水準は無視しても構わないということになります。なお、一号に定める、この協定の対象者となる派遣スタッフを「協定対象派遣労働者」と呼びます。
派遣会社は、①労使協定を締結して「協定対象派遣労働者」の範囲を決めて、②派遣スタッフの給与を決めるときは公正な評価に基づいて決める ③その給与金額が(イ)以上となること、という決定方式になります。(イ)が派遣スタッフの最低賃金的な役割を果たすわけです。これを文字通り受け止めると、賃金と連動した評価制度を作るのが確実ということになります。有期雇用のスタッフであっても評価することになります。
公正な評価をしない場合は、原則通り派遣先の比較対象労働者の賃金を基準とする、原則に従うことになります。
また、派遣労働者に係る事項について就業規則を作成したり、変更しようとするときは、あらかじめ、当該事業所において雇用する派遣労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めなければならないという努力規定(36条の6)も設けられました。就業規則にこの評価制度を織り込んだ賃金規程が織り込まれるからでしょう。
改正条文については、新旧対照条文37P~46Pを参照しておくと良いでしょう。いずれにしても派遣会社としては、何らかの評価制度と賃金テーブル(これができるなら、時給はいくら)といった仕組みを、就業規則を含めて整備する必要があります。来年(2019年)は、このあたりを真剣に考えざるを得なくなるでしょう。