労使協定方式における協定書は、監督署への提出は不要です
改正派遣法施行の2020年4月1日まで、残り1ヶ月を切りました。労使協定方式による派遣スタッフ賃金決定を選択する派遣会社にあっては、この3月ギリギリにおいても労使協定の締結が完了してないケースも珍しくないようです。
弊社にも本当に多くの相談をいただいてますが、ここ最近問い合わせいただいた質問や気づいた点、厚生労働省の公開資料について記しておきたいと思います
労使協定方式による労使協定は監督署への提出は不要
今さらな感もあるのですが、予想以上に誤解されている方が多いようです。今回の労使協定方式による派遣スタッフ賃金決定における労使協定は、労働基準監督署への提出は必要ありません。36協定のイメージが強いせいなのか労働基準監督署へ提出する義務があると、プロである弁護士・社会保険労務士さえ誤解しているケースもあるようですが、提出の必要はありません。なかには、改正派遣法が施行される2020年4月1日前に監督署へ提出しないといけないとまで誤解されているケースも見受けられます。繰り返しますが、そんな必要は一切ありません。
必要となるのは、2020年6月に労働局へ提出する事業報告書へコピーを添付することだけです。どの派遣会社も同じ扱いとなります。
労使協定は、監督署に提出が必要な協定と提出不要な協定の2パターンがあります。例えば労働基準法18条(強制貯金)の規定を見ると、届け出義務が記されていますが、同じ労働基準法24条(賃金の支払)では届け出義務は記されていません。比較してみましょう
第十八条
1.使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。2.使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
そもそも、労働基準監督署に提出するかどうかの義務は、当たり前ですが労働基準法に規定されています。逆にいえば労使協定の作成は求められているものでも労働基準法に提出が定められていないものは提出は不要なわけです。例えば、ポピュラーな労使協定でいえば育児休業法第6条の定めは、労使協定は必要だが監督署への提出義務は記載ありません。労働基準法ではない法律で定められたものだから提出不要と考えるとイメージがわきやすいと思います。
第六条 事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。ただし、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち育児休業をすることができないものとして定められた労働者に該当する労働者からの育児休業申出があった場合は、この限りでない。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
二 前号に掲げるもののほか、育児休業をすることができないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの
派遣法も労働基準法ではないので、監督署への提出義務はないわけです。労使協定方式について規定する派遣法30条の4にも提出義務の記載はありません。
第三十条の四 より抜粋(解釈に影響を与えないカッコ書きは割愛)
派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定(派遣先均等・均衡方式のこと)は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者(協定対象派遣労働者のこと)の待遇については適用しない。
改正派遣法の規定に監督署への提出という文言はないにも関わらず、3月までに監督署へ提出しないといけないとパニックになっている方も少なからずいらっしゃるようですが、そんなことはありません。ご安心ください。労使協定が必要な手続きとその提出義務について下記に整理しておきます。
役所への提出 | 提出先 | 労使協定の内容 | 根拠法令 |
必要 | 労働基準監督署 | 労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合の労使協定 | 労働基準法第18条第2項 |
1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定 | 労働基準法第32条の2 | ||
1年単位の変形労働時間制の労使協定 | 労働基準法第32条の4 | ||
1週間単位の非定型的変形労働時間制の労使協定 | 労働基準法第32条の5 | ||
時間外・休日労働に関する労使協定 | 労働基準法第36条 | ||
事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 | 労働基準法第38条の2第2項 | ||
専門業務型裁量労働制に関する労使協定 | 労働基準法第38条の3 | ||
企画業務型裁量労働制に関する労使委員会の決議 | 労働基準法第38条の4 | ||
高度プロフェッショナル制度に関する労使委員会の決議 | 労働基準法第41条の2 | ||
労働局 | 労使協定方式の労使協定 | 派遣法施行規則第17条第3項 | |
不要 | 無し | 賃金から法定控除以外のものを控除する場合の労使協定 | 労働基準法第24条 |
フレックスタイム制の労使協定 | 労働基準法第32条の3 | ||
休憩の一斉付与の例外に関する労使協定 | 労働基準法第34条 | ||
月の時間外労働が60時間を超えた際の代替休暇に関する労使協定 | 労働基準法第37条第3項 | ||
年次有給休暇の時間単位付与に関する労使協定 | 労働基準法第39条第4項 | ||
年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定 | 労働基準法第39条第6項 | ||
年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の労使協定 | 労働基準法第39条第9項 | ||
育児休業及び介護休業が出来ない者の範囲に関する労使協定 | 育児介護休業法第6条、第12条 | ||
看護休暇及び介護休暇が出来ない者の範囲に関する労使協定 | 育児介護休業法第16条の3、6 | ||
3歳未満の子の養育及び対象家族の介護に伴う所定外労働の制限が出来ない者の範囲に関する労使協定 | 育児介護休業法第16条の8、9 | ||
3歳に満たない子の養育及び対象家族の介護に伴う短時間労働措置が出来ない者の範囲に関する労使協定 | 育児介護休業法第23条の1,3 | ||
継続雇用制度に関する労使協定 | 高年齢者雇用安定法第9条 |
厚生労働省より、派遣スタッフに向けた新たな資料が2点公開
下記の、youtube動画が2020年2月26日に公開されています。10分程度の動画ですが、今回の派遣法改正が、派遣スタッフ向けの同一労働・同一賃金であることが分かりやすく解説されています。
そして、2月12日に、パンフレット「過半数代表者に選ばれた皆さまへ」も公開されています。労使協定方式を採用している派遣会社としては、過半数代表者の選出の過程を筆頭に、賃金水準がどのようにして決定されるかのポイントが解説されています。
一律に賃金アップすることが強制されているわけではもちろんありませんが、このような資料が公開されており、改めて派遣会社と派遣スタッフとの情報格差が小さくなっているわけで、賃金が変わることについてはオープンに公正にやっていくことが求められる時代に入ったと痛感しています。