労使協定方式での賃金支払方法は、5パターンある
賃金とは、基本給・賞与・退職金のこと
2020年4月1日施行の改正派遣法では、派遣スタッフへの賃金の概念が拡充されています。賃金には、①基本給②賞与③退職金 の3つを含んだものだとされています。これは、派遣先均等・均衡方式でも労使協定方式でも同じです。
派遣先均等・均衡方式の場合は、様式第25号(比較対象労働者の待遇等に関する情報提供)に沿って①②③の待遇を決める(正確には、福利厚生も含めた待遇)ことになり、実務的には25号の内容を完全コピーして派遣スタッフに支給すれば事足りることになります。
派遣元会社の実務的には、労使協定方式を採用することが多いと推定されますが、その際に①②③はまとめて支払うことになっているのか、それぞれ別々にしかるべき時期に支払うべきなのか悩まれる方も多いと思います。
実務的には次の5パターンのいずれかを選択することになります。
パターンごとに社会保険料負担は異なる
今回の改正は、①②③すべてを一括支給することを求めているわけではありません。原則は全て一括で払う、つまり時給に含めて支給する前提ではありますが、派遣会社以外の一般企業においても賞与は半期ごとに評価して支給する形式が通例ですし、退職金においても退職時に一括支給することがほとんでであるため、そこは派遣業であっても同様の制度にすることができないとはされていません。労使協定に、派遣スタッフへの賃金支払い方法をどのパターンにするのかを具体的に記載することができます。
既に、派遣スタッフ向けの賃金が高く、労使協定方式で定められている『局長通知の時給』を超えており、局長通知の時給×106%(つまり、退職金額も上乗せ)が、現時点で派遣スタッフに支給している時給を明らかに上回っている場合は、パターン1-1でも問題はないでしょう。現状の派遣スタッフの実勢単価が高騰していることもあり、結果的にパターン1-1を採用し、現状の時給水準のままとなる会社も相当数あるのではないかと推測しています。
局長通知の額は、2019年7月8日に公表されています。基本給と賞与部分を合算した時給です。イメージとしては、派遣先で直接雇用されている正社員・無期雇用フルタイムスタッフの年収÷12ヶ月÷月所定労働時間で計算したものです。2020以降も毎年6・7月に発表されます。
ただし、局長通知の額 > 現状の時給 となっている場合は、別のパターンも含めて検討する必要があります。このときに、どのパターンを選択するかで社会保険料等の法定福利費の上昇額が変わってきます。上記5パターンの赤枠で囲んである部分は、毎月の社会保険料の算定に影響します。
当たり前ですが、時給で払う イコール 社会保険料の標準報酬月額の算定対象に入るからです。中身が賞与相当分、退職金相当分と分離していても、毎月給与として支給するものは標準報酬月額に影響するからです。なお、退職金分を時給として上乗せ支給(つまり、退職時には支給されない)する場合は、年収の6%相当額を負担することと定められています。毎月、中退共や確定拠出年金などの外部に拠出して積み立てる場合は、派遣スタッフ本人に毎月、直接支給されるわけではないので社会保険料の算定には含まれません。
賞与については、払う都度、社会保険料の算定対象となる(賞与支払届を提出)ので、負担があることは避けられませんが、毎月の社会保険料負担とは切り離されるので負担としては、トータルでは少なくなるでしょう。会社としての法定福利費負担や資金繰りを考えると後払いパターンを選択する会社も出てくることでしょう。
賞与の後払い方式について
局長通知の額は賞与を含んだ合算額で示されています。言い換えれば、基本給と賞与の内訳は示されていません。
そのため、賞与部分を後払いするときは、賞与部分の時給を派遣元会社が決める(正確には、過半数労働者の代表との労使の協議で決定)ことになります。
ただし、現状の時給が1,500円だが局長通知では1,600円と示されている場合、賞与を後払いにするからといって、基本給1,400円 賞与分200円とすることは原則できません。これは労働者にとって不利益変更となる(毎月の額が、現処遇の水準より下がる)からです。ここは実務上、注意したいところです。
なお、5つのパターン図のうち、2-1.2-2.3-1で『半期ごとに評価』と記載していますが、半期ごとにこだわる必要はありませんが、一般の会社の賞与支給時期に沿って設定するのが、後払い方式を採用する上での納得性は高いと思われます。ちなみに、すでに公表されている不合理な待遇差解消のための点検・マニュアル~改正労働者派遣法への対応に記載されている労使協定イメージは半期ごとの支給パターンで記載されています。