労働契約申し込み みなし制度について条文を読み込もう
第四十条の六をチェック
何かと派遣先会社を騒がしている(?)『労働契約申し込み みなし制度』ですが、気になる論点を条文から整理してみたいと思います。
先ずは、平成27年10月1日より施行される(であろう)条文をチェックしましょう。分かりやすくするため、カッコ書きされているところは取り消し線でカットしました。飛ばして読んでいきましょう。注釈もつけていきますね。
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律より
第四十条の六 労働者派遣の役務の提供を受ける者
(国(特定独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第二項に規定する特定独立行政法人をいう。)を含む。次条において同じ。)及び地方公共団体(特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。)を含む。次条において同じ。)の機関を除く。以下この条において同じ。)が次の各号のいずれかに該当する行為を行つた場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行つた行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかつたことにつき過失がなかつたときは、この限りでない。一 第四条第三項の規定に違反して派遣労働者を同条第一項各号のいずれかに該当する業務に従事させること。
→いわゆる港湾運送・建設・警備業といった派遣禁止業務に派遣社員を就かせること です。
二 第二十四条の二の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。→いわゆる二重派遣を受け入れること・無許可・無届の派遣事業者から受け入れること
三 第四十条の二第一項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。→派遣可能期間を超えて、派遣社員に業務継続をさせることです。
四 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供
を受けること。→いわゆる偽装派遣を受け入れることです。
2 前項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約の申込みに係る同項に規定する行為が終了した日から一年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない。3 第一項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該申込みに対して前項に規定する期間内に承諾する旨又は承諾しない旨の意思表示を受けなかつたときは、当該申込みは、その効力を失う。
4 第一項の規定により申し込まれたものとみなされた労働契約に係る派遣労働者に係る労働者派遣をする事業主は、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から求めがあつた場合においては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、速やかに、同項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた時点における当該派遣労働者に係る労働条件の内容を通知しなければならない。
この条文をじっくり読んでみますと、あくまで労働契約の申込みをしたものとみなすものです。(即 承諾ではない)そして申込みがあったとする労働条件は、派遣先会社の社員等の労働条件ではなく、あくまで派遣元と派遣社員との労働条件となります。(上記の第四項4号により派遣元会社は労働条件を開示する必要があります)
そのため派遣社員が有期雇用である場合は、当然にその雇用期間・賃金等の労働条件を継続することになります。正社員雇用(無期雇用)が強制されるわけではありません。ここは抑えておきたいポイントです。
なお、申込みはあったことになるわけですが、当の派遣社員が『承諾』をしないケースも考えられます(上記の第四項3号のケース)。その場合は、労働契約は成立しないため、雇用を継続する必要はないので問題は生じないと思われますが、承諾後に派遣会社が拒否できるかという論点があります。あくまで申込みがあったとみなす制度ですので、派遣先の承諾があったとみなす制度ではないためです。
申し込みがあっても承諾しなければいいのでは?
厚生労働省の公表している資料(職発0710第4号 平成27年7月10日)にも下記の記載があります。抜粋します。
承諾をしないことの意思表示
・ みなし制度は派遣先等に対する制裁であることから、違法行為の前にあらかじめ「承諾をしない」ことを約する意思表示を行うことは公序良俗に反し認められない。
・ なお、労働契約の申込みがみなされた後に「承諾をしない」と意思表示をすることは公序良俗に反するものではないが、「承諾をしない」との意思表示をした後に、再度違法行為が行われた場合には、新たに労働契約の申込みがあったものとみなされる。
これを一読すると、『何だ、じゃあ拒否すれば(承諾しなければ)イイだけじゃん?』と思われるかもしれません。確かに拒否すること自体は、派遣先の自由です。
ただし、次の条文があり、拒否した場合には、その後の影響があり得ます。
第四十条の八 厚生労働大臣は、労働者派遣の役務の提供を受ける者又は派遣労働者からの求めに応じて、労働者派遣の役務の提供を受ける者の行為が、第四十条の六第一項各号のいずれかに該当するかどうかについて必要な助言をすることができる。
2 厚生労働大臣は、第四十条の六第一項の規定により申し込まれたものとみなされた労働契約に係る派遣労働者が当該申込みを承諾した場合において、同項の規定により当該労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が当該派遣労働者を就労させない場合には、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、当該派遣労働者の就労に関し必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
3 厚生労働大臣は、前項の規定により、当該派遣労働者を就労させるべき旨の勧告をした場合において、その勧告を受けた第四十条の六第一項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
要は、派遣先で直接雇用するように勧告(行政指導)をすることもできるし、直接雇用しなかったらその会社名を公表しちゃうかもね・・・というペナルティがあります。名前の公表による影響を重くとらえるか、軽くとらえるかは企業のスタンスによって違うと思いますが、行政指導を受けたことがインターネットでも簡単にわかる時代(企業名で検索したら、公表されていることが容易に知り得る時代)ですので、採用活動にも影響がでてくる可能性はあります。
そう考えると、結局は『直接雇用』を『派遣元会社での労働条件そのまま』で実施するという形を受け入れる会社が大半なのでしょうね。
さて、10月1日に、この制度がストレートに適用されるのか?派遣法の改正動向に着目していきましょう。