IT時代の労務リスク
今日ではビジネスを進めるにあたり、パソコンが不可欠になっています。パソコンは色々なことができますが、労務的にナーバスな証拠になり得る情報も、知らないうちに記録されています。今回は、パソコンに記録されている情報の見方と、それが労務的に、どのような意味を持つのかを考えていきたいと思います。
日々の電源オンオフも、簡単に調べられます
初回電源投入日時と同様に、日々のパソコン電源オンオフも、記録されています。このログが出退勤の証拠となり得ます。
① コントロールパネル → 管理ツール → イベントビューアーを起動します。
② 左端の Windowsログ → システムを右クリックし、「現在のログをフィルター」をクリックします。
③ 画面中段の入力欄に「6005,6006」と入力し、OKを押します。ちなみに「6005」は起動時間を表し、「6006」は終了時間を表します。
こちらが、上記作業で抽出したデータを、エクセルに貼り付けたものです。ざっくりですがこのパソコンは、1日12時間程度動いているようですね。
ちなみに、Macでも同じような情報を取り出すことが出来ます。この記録は遙かに重要です。具体的には、裁判時において労働時間の算定に、証拠として使われる場合があります。
メールもパソコンもデジタル機器も一切不要だという職種は、ごく限られます。
タイムカードが無い、若しくはタイムカードの打刻時間と、実際の労働時間とに乖離がある場合、このような記録が、真の労働時間算定根拠として、実際に採用されています(例:萬屋建設事件 前橋地裁 平成24年9月7日)。その他には、「マナカ」のような電子マネーの記録が、証拠として採用された例もありますし、メール送信時間も労働時間の証拠になります。
仮に、タイムカードが無く、パソコンの電源オンオフ時間を、労働時間の始業終業時間として残業代を請求された場合、会社としては、それを否定する客観的・合理的な証拠を提出できない限り、電源オンオフ時間を参考に、労働時間を算定されてしまうでしょう。現実的には、タイムカードや、残業指示書のような書面以外で、客観的・合理的な証拠を提出することは、ほぼ不可能です。
現代において、メールもパソコンもデジタル機器も一切不要だという職種は、ごく限られます。パソコンは便利ですが、このように意図しない記録も累積されています。そしてその記録は、ごく簡単な操作で取り出せますし、このご時世、調べる側は、その取り出し方を知っています。だからと言って今更、全てを紙とペンと電卓に戻す事は不可能です。仮に、社内からパソコンを排除したところで、セコムのようなセキュリティの記録でも、労働時間の証拠になり得ます。
ここで「世知辛い世の中になったものだ」的なことが言いたいわけではありません。上記に限らず、日常における不明点や違和感も、その正否はともかく、インターネット上で簡単に回答を調べられます。自分の待遇が、法や異業種を含めた世間一般と比べてどうなのかが簡単に分かり、会社としては、最低でも「世間並み」を維持しないと、特に若年者の採用が難しい。コンプライアンス(法令遵守)を振りかざすつもりはありませんが、今は人口減少社会(現状の出生数は、第2次ベビーブーム【昭和48年 209万人】の半分以下です)なのであり、若年者は取り合いです。今後会社は嫌でも、その対策をせざるを得ないのだということです。