派遣基本契約書と個別契約書のポイント
今回は、派遣基本契約書と個別契約書のポイントについて、まとめてみました。改正の多い派遣法です。個別契約書は契約の都度締結するため法改正対応しやすいと思われますが、派遣基本契約書は、初回に契約したまま特にメンテナンスせず、気が付けば5年以上経過している・・・何てことも少なくありません。それでは、ポイントを見ていきましょう。
派遣基本契約書のポイント
恒常的に取引先と派遣契約を締結する際は、まず派遣基本契約を締結し、個々具体的に派遣する都度個別契約を締結します。ですが、派遣法第26条(契約の内容等)における労働者派遣契約とは、個別契約のことを指し、派遣基本契約書については特に法の定めはございません。それでは、派遣基本契約を締結する意味はあるのでしょうか?答えはYesです。
そもそも派遣法は、派遣労働者を保護するための法律であり、企業間のトラブル防止を目的としたものではありません。
需給調整事業部の調査では、個別契約書に重点を置いてチェックしますが、派遣基本契約書はさらっと見て法律上問題となる箇所が無ければスルーします。
注意したいのは、需給調整事業部のチェックでお墨付きをいただいても、企業間のリスク回避を網羅した内容では無いということです。
ここでは、企業間のリスク回避のポイントについて、ご案内したいと思います。
◆派遣基本契約書には、次の事項を記載することをお勧めいたします。
・派遣料金(派遣料金の決定、派遣先都合による休業が生じた際の損害金の取り決め)
・相互の義務(法令遵守、守秘義務、信義則)
・派遣労働者の行為により損害を被ったときの損害賠償
・禁止事項(反社会的勢力の排除)
・知的所有権の帰属
・契約解除事項(基本契約の解除、雇用契約期間満了の予告)
・派遣料金
派遣法第26条には、派遣料金の定めはありません。厚生労働省が掲載している個別契約書の記載例に派遣料金の項目が無いのは、そのためです。
また、派遣契約の中途解除における派遣労働者の新たな就業の機会の確保や、派遣労働者に対する休業手当等に関しては法の定めがありますが、派遣先都合の休業に関しては、取り決めがありません。コロナ禍で重要視されたポイントです。
・相互の義務
法令遵守、守秘義務、信義則は当然のことですが、派遣先・派遣元両者の認識を一致させるためにも改めて規定しておくことをお勧めいたします。期間制限、二重派遣の禁止、日雇派遣の原則禁止、離職後1年以内の労働者派遣の禁止、残業制限など、両者の認識が一致していないと、知らずに法令違反していた、なんてことも起こり得ます。また、派遣先が労働基準法令に違反した場合、派遣元は労働者を派遣することができません(派遣法第44条第3項)。違反したのは派遣先でも、それを知っていて派遣した場合は、派遣元も送検の対象となることがありますので、注意しましょう。
・損害賠償
時々、このような規定を見かけます。「派遣労働者が派遣先に損害を与えた場合、派遣元はその損害を賠償しなければならない。」・・・業務請負契約書みたいですね。
注意したいのは、業務請負と派遣は全く別物ということです。業務請負はその名のとおり業務を請け負っているわけなので損害賠償は当然ですが、派遣は派遣先の指揮命令下で労働力の提供をしているに過ぎないため、基本的には派遣元は損害賠償する必要はありません。とはいえ、基本契約書に上記の記載があれば、当然派遣元が賠償しなければならなくなってしまいます。基本契約書には、「故意又は重大な過失」「不法行為により」など、損害賠償責任の限定条項を付けることをお勧めいたします。
・禁止事項
反社会的勢力の排除を契約の相手方に表明、保証するとともに、これに違反したときに責任を負うという内容も盛り込んでおきましょう。
・知的所有権の帰属
プログラム開発やデザイン、書籍制作その他の知的財産権の発生が予想される業務に関しては、明確に取り決めをしておくことで、トラブル防止に繋がります。
・契約解除事項
倒産等による契約解除のみならず、個別契約の更新を行わないときの取り決めを明記しておきましょう。イメージは労働者に対する雇止めの予告です。個別契約の中途解除はしないにしても、個別契約期間終了間近に「契約の更新はしない」と言われても、派遣元は困ってしまいます。
個別契約書のポイント
個別契約書においては、派遣法第26条の項目をすべて網羅している必要があります。詳細は各都道府県労働局のHPで掲載している記載例を見ていただくとして、注意したいポイントのみご案内致します。
・派遣先事業所
派遣法で定める派遣先事業所とは、原則として雇用保険適用事業所のことをいいます。そのため、派遣先事業所と実際の就業場所が異なることがあります。
派遣先事業所が雇用保険適用事業所に該当するか否かは、「労働保険適用事業場検索」で確認することができます。この派遣先事業所は、事業所単位の抵触日や労使協定方式における地域指数に影響を及ぼしますので、注意しましょう。
・無期派遣労働者または60歳以上の派遣労働者に限定するか否かの別
無期派遣労働者か60歳以上の方しか派遣しない場合でも、個別契約書に「限定なし」の表記があると、派遣先から抵触日通知をもらった後でなければ、契約を締結することができません。実際の運用と齟齬が無いように注意しましょう。
・派遣労働者を協定対象労働者に限定するか否かの別
これも上記と同様です。「限定なし」と表記しつつ、実際は労使協定方式の対象者しか派遣しない場合でも、契約締結前に、派遣先から比較対象労働者の賃金情報をもらわなければ契約締結できなくなってしまいます。
・就業日
「派遣先カレンダーによる」「シフトによる」と記載している場合は、個別契約の派遣期間を網羅したカレンダーやシフトの添付が必要です。(例:3ヵ月の派遣契約なら3ヶ月分のシフトが必要)
・派遣料金
派遣料金は、基本料金のみならず、残業した場合に割増料金を請求する場合は、必ず記載しておきましょう。派遣料金は賃金では無いので、労働基準法の適用はありません。
・派遣元の事業所と許可番号
派遣元の事業所と許可番号は、人材サービス総合サイトで検索できます。無許可事業主から派遣労働者を受け入れてしまった場合は違法派遣となり、「労働契約申込みみなし制度の対象」になってしまいます。また、前は許可を取得していても、不更新により許可が無くなっている可能性もゼロとはいえません。リスク回避のためにも、派遣先は派遣元の許可期限を把握することをお勧めいたします。
いかがでしたか?基本契約書と個別契約書の記載内容について、今一度ご確認いただくことをお勧めいたします。