一般派遣業における試用期間の有効性
派遣社員(有期雇用者)の試用期間
前回記事『一般派遣は、有期雇用であることを意識する』で解説したとおり、雇用期間が定められた有期雇用契約の社員については契約期間内の解雇は難しいです。一般派遣業で勤務する派遣スタッフの大半が有期雇用ということを考えると、例えば6ケ月の雇用契約を結んでいたときに、何らかの事情で1ヶ月で解雇せざるを得ないときには残り5か月の給与を補償するリスクは避けられません。(もちろん、本人がそこまでの補償を望まないこともあり得ますが)
このときに、『では、当初の何日間を正社員と同様に試用期間として設定し、試用期間中の勤務状況を確認したうえで正規雇用すれば良いのでは?』という考えられる方もいると思います。14日以内の試用期間中の労働者については、解雇予告も不要と労働基準法20条・21条でも明記されています。なるほど、問題はなさそうです・・・。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。 但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
有期雇用の者に試用期間設定を設けることを制限する規定は、労働契約法にも見受けられません。
現時点では、有期雇用者に対しても試用期間を設けること自体は有効と考えて良いでしょう。では、試用期間を定めることは有効だとして、どのような場合には試用期間中の解雇が認められるのでしょうか?労働契約法の施行前の判例ではありますが、下記の判例は非常に参考になると思われます。
平成18年1月27日 東京地裁 判決からポイントを学ぼう
ポイント1.
派遣元と派遣スタッフとの間の就業規則(派遣従業員就業規則)には、下記の条項がありました。
第5条 会社は、前条によりスタッフと雇用契約を結ぶときは、⒕日の試用期間を設けるものとする。
第5条2項 試用期間中は、技能・経験のほか、勤務成績・勤務態度その他において総合的に判断し、会社が不適格と認めた場合には、試用期間中または試用期間の満了時に解雇する。
ポイント2.
派遣元での研修期間(2日の研修期間のみで解雇されています)で、下記のようなことがありました。
①初日に起きたこと
派遣元での研修が9時30分からスタートするところ9時45分になっても来ない。その後電話連絡もなく、スタッフからは「すみません」の一言もなかった。
②2日目に起きたこと
・10時から派遣元で研修が開始されるところ、出勤がなく9時55分時点で電話もなかったので、派遣元担当者はスタッフの携帯へ電話をしたところ、電車が遅れているので10分から15分ほど遅れるとのことだった。結局、スタッフは研修開始時刻に30分遅れて出勤した。
・午前中の研修が12時に終わり、午後の研修の開始時刻が13時40分であったにもかかわらず、スタッフは13時40分に自分の席に戻っていなかった。
・何の連絡もスタッフからないので派遣先責任者は、派遣元担当者に要請をし、派遣元担当者はスタッフに携帯電話で連絡をしたところ、銀行の振り込みが混んでいて席に戻るのが遅れるとの報告を受けた。やむなく研修はスタッフ抜きで開始し、結局14時10分にスタッフは着席した。
・午後の休憩が終わり研修再開となった15時15分ごろ、他社の派遣スタッフと口論となる。『ケンカ売っているのか!』などの大きな声が上がり、周囲の者も気づき、研修を再開できず、講師が止めに入ったが、大声を上げ続けて収拾がつかなくなり、研修再開に10分ほど時間を要した。
・上記のことから派遣先より、派遣元責任者へスタッフの交代の要請があった。
・派遣元責任者は、担当者から事情を徴収し、さらにスタッフから文字所を確認し、解雇の意思表示をその場で伝えた。
そして結論は、解雇有効
解雇は認められた。その理由として、下記の記載がされています(上記のポイントを読んだ時点で想像がつくことではあります)
原告(解雇された派遣スタッフ)は、この程度のことでは解雇は許されないこと、有期雇用契約に試用期間の適用はないこと及び今回の派遣先以外に配転すべきである旨主張する。
しかしながら、被告(派遣元会社)のように他社との派遣基本契約に基づいて需要に応じて労働者を雇用して当該他社に派遣する会社は、有期雇用とはいっても自社の従業員として他社に派遣するもので、当初の面接・面談あるいは応募者の履歴のみから被用者の能力や適性等の見極めが十全にできるものではなく、派遣社員の質や派遣会社の信用・評判等を維持するためにも自社の従業員を管理する必要があり、そのために認定事実におけるような契約条項により14日間(この期間中は解雇予告手当支給の対象外)の試用期間を設けているものと思われる。このような契約条項が労基法の強行法規に反するものとまでは考えられず、むしろ私的自治における契約の自由の範囲内による派遣会社の合理的な対応というべきであり、濫用にわたるような試用条項の適用実態があるといった特段の事情がない以上、そのような使用の試みが有期雇用であるということで許されないということはできない。
本件における当該雇用の趣旨や2日間の原告の勤務状況・態度にかんがみると、被告が留保解約権の行使により原告を解雇に踏み切ったことには合理性が認められるものであり、原告の上記主張はいずれも採用できない。
有期雇用であっても試用期間を設けること。そのこと自体は合理的な行為ではあります。ただし、労働契約法16条に定める、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。』および17条に定める『使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。』の2つの条文の記載がある以上、単なる能力不足を理由とした、安易な解雇はできないことは意識すべきでしょう。
常識的に考えれば良いのだと個人的には考えています。誰が見ても問題ある人には、毅然とした対応をするしかない。ヒトの問題は最終的には、そこに行きつくのだと思います。