出張から帰宅する時間が、所定の退勤時間を超えたら残業代を付すべきか?
下記のようなご相談をいただくことがあります。
名古屋から東京へ新幹線で出張します。帰りについては自宅への直帰を許してます。出張先での業務が終われば、あとは何をしていようが問いません。
このような出張を社員にお願いしたところ、『業務は17時で終わりますが、名古屋駅へ到着するのは19時ごろです。18時までは所定労働時間なので18時―19時の1時間は残業ですよね?』という質問がありました。この場合18時―19時の1時間分の残業代を負担する必要があるのでしょうか?
イメージとしては、帰路の新幹線での移動時間が『労働時間』となるのか?です。そして車中では何をしていようが(お酒を飲んでいようが、寝ていようが)、会社は問いません。
結論としては、単に目的地(名古屋)までの列車に乗車している時間は労働時間とはなりません。出張中の移動時間は労働拘束の程度が低く、これが実勤務時間にあたると解することは困難であるという判例があります。分かりやすくいえば、外出は制限されているが、何をしていてもOKな休憩時間と同じだからです。(平成6年9月27日東京地裁判決 横河電機事件)
車中で仕事をすること(例えば、出張先との商談レポートを作成するとか、車中でもネット・メールによる業務対応を強いられているとか)が必須であれば、当然に労働時間となりますが、それが命じられていないのであれば、何をするかは社員の自由であるため、労働時間にならないわけです。出張先のホテルで寝ている時間が残業扱いにならないのも同じ理由なわけです。(もっとも荷物の運搬そのものが業務である場合は別です。運搬に係る時間そのものが労務提供の時間になるので労働時間となります。)
とはいえ、法律上の問題はないとはいえ、社員の実感としては帰宅が遅くなるわけで釈然としない気持ちもわかります。ここを埋めるために会社が何らかの配慮をすることは法律は責めません。出張日当を手厚くする会社・みなし残業時間として一定時間を残業時間とカウントして割増賃金を払う会社など様々です。
労務に関わる担当者は、『法令ではこれで問題ないが、実際の運用は社員に配慮した制度を組む』という視点が大事だと思われます。法令違反はもちろん、社員の気持ちを頭から無視するのもアウトな時代です。コンプライアンスも社員と会社との共感も、両方とも求められる時代ではないでしょうか?
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