派遣法の「事業所」「組織単位」の考え方
事業所単位の期間制限でいう「事業所」「組織単位」とは?
労働者派遣業を行う上で、「事業所」の単位というのは、気になるキーワードではあります。有期契約の派遣スタッフは、同一の派遣先事業所に、同じ人を3年までしか派遣できないからです。そこで、先ずは事業所の定義をチェックしてみたいと思います。
事業所の概念(労働者派遣事業取扱要領抜粋)
「事業所等」については、工場、事務所、店舗等、場所的に他の事業所その他の場所から独立していること、経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること、一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断する。
「事業所」とは、雇用保険法等雇用関係法令における概念と同様のものであり、出張所、支所等で、規模が小さく、その上部期間等との組織的関連ないし事務能力からみて一の事業所という程度の独立性がないものについては、直近上位の組織に包括して全体を一の事業所として取り扱う。
因みに、雇用保険法上の適用事業所とは、具体的に次の事項を満たす必要があります。
・人事権(募集・面接・採用・配置・解雇等の最終決定権)がある
・経営の状況(指揮監督権、業務計画の企画・立案、事業所代表者の責任の範囲が事業所全体である)
・経理の状況(給与計算、給与支払)
・労働保険の適用状況(独自に適用(本社一括ではない))
取扱要領に定義はあるものの、実態の判断は各都道府県労働局の「行政解釈」になります。
同じ労働局でも、都道府県・担当者により見解に相違があり、現状では明確な回答はできませんが、2つの労働局に、下記の質問を投げかけてみました。
『多数の小規模店舗を運営している会社にとって「事業所」「組織単位」は、それぞれどの組織に当たるか?』
【某労働局の見解】
事業所と組織単位の定義については、現在検討中の課題である。「事業所」の概念上は確かに「雇用保険の適用事業所」だが、その概念は古く、実態と乖離している。小規模店舗が場所的に独立性を有しており、それぞれの店舗で「派遣先責任者」が設置され、その者が派遣社員を含む他の社員の労務管理をしているのであれば、一つの「事業所」と扱って問題ない。
従業員数名の「小規模店舗」=「事業所」=「組織単位」ということもあり得る。
その見解によれば、有期契約社員の「組織単位」の期間制限は、同じ派遣先会社の他の小規模店舗に異動させれば継続勤務が可能ということになります。
【他の某労働局の見解】
事業所とは、雇用保険適用事業所として適用があるか否かで決まる。したがって、独立性の無い小規模店舗は、派遣法上の事業所ではなく、小規模店舗は一括して一つの「組織単位」に該当する。
例)雇用保険番号が本部のみの場合
本部=「事業所」 複数の小規模店舗=「組織単位」ということになる。
その見解によると、派遣先の小規模店舗が一括して「組織単位」に該当するのであれば、小規模店舗すべてに有期契約社員の期間制限が設けられるため、その派遣先会社には最大3年間しか派遣することができなくなる。
このように、事業所の概念は明示されつつも労働局によって見解が異なります。しかしながら、事業所単位の期間制限の趣旨は「派遣先の常用労働者の代替防止」、組織単位の期間制限の趣旨は「有期雇用派遣労働者について、節目節目でキャリアを見つめ直し、キャリアアップの契機とすることで派遣労働への固定化の防止を図る」であることから、多店舗展開している派遣先会社の店舗間で派遣労働者を抵触日の都度異動させるのは、キャリアアップの趣旨にそぐわないと思います。
したがって、派遣先の多店舗展開している一の店舗は「事業所」及び一の「組織単位」ではなく、小規模店舗をまとめて一の「組織単位」と考えた方が派遣法の趣旨に合っていると思われます。